Secret seasoning



 どうか失敗しませんようにと心の中で祈りながら、高見沢がケーキを取り分ける過程を見守る。
 ぎこちない手つきでナイフとスプーンを使いながら一生懸命ケーキと格闘している。真剣な姿には好感が持てるが手元が危うい。桜井が不安を感じたときケーキは皿に着地した。
 ベシャッと見事な横倒しになった状態で。
 着地失敗。
「……………………………………」
 ただでさえ悲惨な見てくれだったケーキが、救いようのないほど無惨な姿に早変わり。皿の上を転がるイチゴが妙な哀愁を帯びている。
 高見沢もこれはマズイと思ったのか、
「……へ、平気だって! 見た目と味はまた別モノだから!」
 大して効果のないフォローをした。
「ほら、食ってみろって? 味は俺が保証するからっ!」
 半強制的に皿とスプーンを押しつけられる。桜井は恐る恐るスプーンを手に取った。
 まずは桜井が毒味……否、試食ということらしい。もっとも、今回の新年会の主役は一月が誕生日の桜井だ。主役が一番最初にケーキを口にしてもなんら不思議はない。むしろ当然の流れとも言えるはず。
 ……これが市販品で、最低限は味が保証されたケーキだったのなら…だが。
 桜井はゴクリと喉を鳴らすと、緊張した面持ちでケーキを一口分すくい取る。まずはクリームのところから。ケーキはスポンジ部分よりもやはりクリームの部分が甘くて美味しい。
 思い切って口に運ぶ。
 口の中にほんのりとした甘い香りが漂い…………。
 漂い…………………?
「………………………………?」
 もぐもぐと口を動かす桜井の頭の中に、疑問符が立て続けに三つ浮かんだ。

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