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コンビニから出た途端に吹いてきた木枯らしの冷たさに思わず首をすくめた。 「うー……、寒いっ」 店内に流れていたBGMは、自動ドアが閉まるとともにぱったりと聞こえなくなってしまう。入れ替わるようにして、木々から落ちた茶を帯びた黄色や赤い葉っぱが、ぱらぱらと渇いた音をたてながらアスファルトの上を転がるようにして通り過ぎていく。 「秋もそろそろ終わりだねぇ……」 桜井は、吹きつけてくる風に目を細めながら呟いた。 数ヶ月前は連日のセミの声に混じって、暑い暑いと口にしていたのに。いつの間にか暑さはなりを潜めて、朝晩の寒さに身を震わせる日すら出てきた。あとひと月もすれば、もしかしたら東京でも雪が降る……なんてコトもあるかもしれない。 桜井は、コンビニの手提げ袋を片手に、薄暗くなった舗道を歩き始めた。 秋の日はつるべ落としと言うけれど、日が落ちるのはあっという間だ。夏場ならまだ明るいだろう夕刻のこの時間帯でも、灯りの乏しい道を歩くには足下が心許ないほど闇が濃い。お世辞にも明るいとは言い難い街灯の細い光でさえ心強く感じるほどだ。 車が多く行き交う通りから少し外れた場所なせいか、人通りがまばらな道は喧噪からもほど遠い。辺りが静かなせいだろう。風が葉を揺らす音、地面を通り抜ける音が率直に耳に届いた。 歩くたびに指先で揺れるビニール袋の軽快なリズムに重なって、遠くのほうから空き缶が転がる音が聞こえてくる。 思い出したように吹きつけてきた北風に、桜井はまた反射的に首をすくめた。 「……寒っ!」 条件反射で口から悲鳴混じりな声がこぼれる。 夏の暑さに対して「暑い」と言うのと同じぐらい、晩秋や冬の寒さに「寒い」と言ったところで寒さが和らぐわけでもない。 げんに桜井の言葉など無視するかのように、風は躊躇や遠慮のカケラもなく吹きつけてくる。清々しいぐらいに容赦がない。風にあおられたのか、また遠くのほうから空き缶が乱暴に転がされていく音が聞こえてきた。木枯らしは空き缶にも容赦がないらしい。 桜井は、遠ざかっていく空き缶の音に耳を傾けながらジャケットの襟を合わせた。 秋のツアーも折り返しを迎えて、いよいよ佳境に向かって突き進んでいる。今年最後の月に出す新しいアルバムのレコーディングもつい先日無事に終えることができた。 季節の移り変わりとともに、桜井たちも一歩ずつ着実に前へと歩き続けている。季節が秋から冬へと変わる頃には、この秋ツアーのゴールも見えてくるだろう。 そう考えると、寒さで強張っていたカオが自然と緩んでいくのが自分でも分かった。 吹きつけてくる風ですっかり冷えきってしまった指先に力をこめてビニール袋を握り直す。街路樹の葉を撫でた風が、家路に向かう桜井の背中を軽く押した。 秋から冬へ。 急ぎ足で通り過ぎていく秋の足音が聞こえた気がした。 |